翻訳家の卵がシャーロック・ホームズを翻訳してみた『ライゲートでの難問』その5

 ホームズが喋り終えると同時に、二人の男が屋敷の隅の辺りから庭園内の小道を降りてきた。一人は威厳に満ち、深いしわが刻まれ、重々しい目をした顔つきの初老の男だった。もう一人は、快活で人当たりのよさそうな威勢のいい青年だった。その青年の服装は派手で、私たちをこの屋敷にもたらした用件とは奇妙なほどに不釣り合いであった。
「あらら、まーだそんなところにいらしたんですか?」ホームズに向けて、アレク氏が言った。「あなたのようなロンドン人は決して失敗しないと俺は考えていたんですよ? やっぱり、とてもじゃないがあなたはそんなに頭が切れるようには思えないなー」




「これはこれは。ですがアレクさん、残念ながらあなたは僕たちに時間を費やさなければならない」ホームズは言った、それも上機嫌に。
「あなたはそうしたいんでしょうね」アレク・カニンガム氏は言った。「なぜです? 俺たちはこれ以上手がかりを持ち合わせてないんですよ?」
「一つだけですがあります」フォレスター警部は応えた。「それを見つけることができたならと、我々は考えていました。全くホームズ殿! いったいこれに何の意味があるんですか?」
 突如、虚弱な友の顔はひどく嫌な予感のする顔つきを呈した。友の目はくるりと上を向き、友の顔は苦痛に悶え、押し殺したうめき声とともに、文字通り、ホームズは顔から地面に落下した。不意に起きた深刻な発作にびっくりして、私たちはホームズをキッチンに運んだ。そこで、ホームズは大きな椅子にもたれかかり、数分間深く息を吸い続けた。落ち着いたところで、その虚弱さに深く恥じた謝罪をし、ホームズは再び立ち上がった。
「あなたたちに、僕が深刻な病気から回復したばかりだとワトソンは伝えるでしょう」ホームズは説明した。「突然の神経性の発作になりやすいんです」
「馬車で家まで送ろうか?」カニンガム氏は尋ねた。
「いえ、せっかくここにいるので、一点、確信を得たいことがあります。それはとても簡単に確かめることができます」
「それはなんだね?」
「そうですね、もしかするとですが、この不運な男ウイリアムさんがこの屋敷に到着したのは、強盗が侵入する前ではなく後だったのでは、という可能性があると思っています。カニンガムさん、あなたたちは、扉はこじ開けられたが、強盗はこの屋敷に決して足を踏み入れていないと、当然のように考えているように思えるのです」
「当然、私はそうだと信じているがね」カニンガム氏は厳しい口調で言った。「なぜだ? 私の息子はまだ寝ていなかったし、もし輩が忍び込んでいたとしても、誰かの気配があったなら間違いなくその物音を聞いていただろう」



「アレクさんはどこに座っていたんですか?」
「俺は化粧室でたばこをふかしていましたよ」
「どの窓? それはどの窓ですか?」
「左から見て最期のやつですよ、父さんの次の窓」
「あなたたちの部屋の照明はついていた。当然そうですよね?」
「その通りですよ。たまげたたまげた。あなたは間違いなく名探偵ですよ、ホームズさん」
「いくつか、非常に奇妙な点がここにあります」笑いながら、ホームズは言った。「ある強盗、例えば豊富な経験のある輩がいるとします。その輩が、これから押し入る屋敷にいる家族の2人がまだ起きていることを明かりから確認できたとします。そんな輩が故意に、そんな屋敷に侵入するのは異常ではないですかね?」
「その輩は自信のあるやつだったのかもしれないぞ」カニンガム氏は言った。
「その通りだ。この事件がこんなに奇妙でなかったなら、もちろん、俺たちはあなたたちに説明を求めたりなんかすることはなかったでしょうよ」アレク氏は言った。「だけどね、ウイリアムが強盗に立ち向かう前にその強盗が家に忍び込んでいた、というあんたの考えに関しては、ほぼ間違いなく、理屈に合わない考えだと俺は思っていますからね。俺たちはね、荒らされた形跡を見つけられてもいないし、たとえ何か盗まれていたとしても、盗まれた物に俺たちが気づかなかったわけもないでしょうよ」
「それは盗まれた物次第ですよ」ホームズは言った。「僕たちは、非常に風変わりで、特殊な方針に従って事を進めているだろう強盗を取り扱っているということをお忘れではないでしょうか? 例えば、強盗がアクトン邸から盗んだ物はなんでしたっけ? 毛糸、ペーパーウエイト、僕の認知していない他のがらくたという沢山の風変わりな盗品だったということを思い出してください」
「そうかそうか、私たちは君の手の中にあるわけなんだな、ホームズ殿」カニンガム氏は言った。「ホームズ殿、もしくはフォレスター警部が提案するかもしれない何かは、ほぼ確実に実行されることになるのだろう」
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