翻訳家の卵がシャーロック・ホームズを翻訳してみた『ライゲートでの難問』その3

「我々は、アクトン邸での事件の手がかりを持っていません。ですが、我々は十分に捜査を続ける必要があります。各事件において、同じ強盗だということに疑いはありません。そして、犯人は目撃されています」
「これはこれは」




「ええ、ホームズ殿。犯人は、不運な男、ウイリアム・キルヴァンさんを撃ち殺した後、カモシカのように逃げました。カニンガム氏はベッドルームの窓から犯人を目撃し、アレク・カニンガム氏は裏手への通路から犯人を目撃しました。警鐘が鳴り響いた時、時刻は11時45分でした。カニンガム氏はちょうどベッドに入ったところで、アレク氏はガウンを着てタバコを吸っていたそうです。両人とも、助けを必要とする御者のウイリアムさんの声を聞きました。そしてアレク氏は状況を確認するために走り降りました。裏口は開けられていたそうです。階下に着くと同時に、アレク氏は外で争うニ人の男を目撃した。彼らの内の一人は銃を撃ち、もう一人は倒れていた。そして、殺人犯は庭を渡り、生垣を超えて駆け出した。ベッドルームの外の様子をうかがっていたカニンガム氏は、殺人犯が路地を駆けていくところを目撃しました。しかし、その姿はすぐに見失った。アレク氏は瀕死のウイリアムを助けることができる可能性にかけ、犯人を追うことをやめました。その結果、犯人は見事に逃げおおせた。犯人が中肉中背の男で黒い素材の服を着ていたという事実を除いて、我々は手がかりを持っていません。ですが我々は精力的な捜査を行なっています。犯人がこの辺りの者でないなら、私たちはすぐに犯人を見つけ出すでしょう」
「ウイリアムさんはそこで何をしていたのか……? 死ぬ前、ウイリアムさんは何か言っていたの?」
「何も。ウイリアムさんは母親とともに小さな家に住んでいるとても誠実な方でした。そのため、問題がないかを確認する目的でウイリアムさんは屋敷に赴いたと我々は考えています。もちろん、アクトン邸での出来事が、周辺の警戒を強めさせていたのも事実です。ウイリアムさんがその強盗に偶然出会った時、強盗は無理やり錠を破り、ちょうどドアを開けていたところだったに違いありません」
「ウイリアムさんは外に出る前、彼のお母さんに何か言っていたのかい?」
「ウイリアムさんの母親はとても年老いており、耳が遠い。我々は彼女から何も情報を得ることができませんでした。ウイリアムさんが亡くなったという事実は、彼女の精神を衰弱させていました。しかし、ウイリアムさんの母親はそんなに利口な方ではないと私は理解しています。ですが、極めて重要な手がかりがあります。これを見てください!」



 フォレスター警部は手帳から、破られた小さな紙の切れ端を取り出し、それを膝の上で広げた。
「これは被害者の親指と人差指の間から発見されたものです。より大きな紙から破られたものだと思われます。ホームズ殿はすぐに気づくでしょう。被害者のウイリアムがまさに死の運命に直面した時間が、この紙の切れ端に記されていることに。更にあなたはこう思ったかもしれません。殺人犯が紙の残りをウイリアムさんの手から破った、もしくはウイリアムさんが殺人犯からこの紙の切れ端を奪ったかもしれないと。この紙の内容は誰かと会う約束のものだったかのように読めます」
ホームズはその紙の切れ端を掴み上げた。以下がその紙の切れ端を複写したものである。
手紙の一部
©1893 Free Public Domain Books from the Classic Literature Libraryより引用

   at quarter to twelve
   learn what
   maybe

※物語の都合上、原文も記載しています。

  11時45分に
  おまえは
  想像以上の

「それが誰かと会う約束だったと仮定しましょう」フォレスター警部は続けた。「もちろん、これから述べることは私の個人的見解です。ウイリアム・キルヴァンさんは誠実な男だということでした。にも関わらず、盗賊の一団にいたかもしれません。ウイリアムさんは犯人とカニンガム邸で落ち合い、更に忍び込む手助けをしたかもしれません。そして、彼らは仲たがいをしたのかもしれません」
「この書き方は非常に興味深いな」ホームズは独りごち、その紙の切れ端を猛烈な集中力でくまなく調べ続けた。「これは僕が考えていた以上に奥が深い」ホームズは髪に手を埋めた。
一方でフォレスター警部は、彼の担当する事件をあのロンドンで有名な専門家が注視しているというこの状況に微笑んでいた。
「君の最後の発言」少しして、ホームズは言った。「犯人とウイリアムさんの間に起きたかもしれない君の解釈と、この紙の切れ端が誰かから誰かへの約束の手紙である可能性に関しては、見事だ。全く不自然な推測ではないね。だけど、本当にこの書き方は……」ホームズは再び、彼の髪に手を埋め、その最も深い熟考に数分間身を委ねた。
 ホームズが顔を再びあげた時、私は彼の頬がかすかに色づき、病気になる前より、彼の目が生き生きとしていることに気づき驚いた。
 ホームズは全ての力を足に集中させ、飛び起きた。「この事件の詳細について静かな場所で考察したいとあなたたちに言わせていただきましょう」ホームズは言った。「非常に関心を抱かせる何かがあります。大佐、もしあなたが僕に許可していただけるのなら、僕はあなたと僕の友、ワトソンを置いて行き、僕の心に思い描く一つもしくは二つのちょっとした真実を捜査するためにフォレスター警部とともに出歩きたいと思います。三十分後に僕は再びあなたと対面しているでしょう」
【前へ】
【次へ】




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です