音楽
元ドラマーがドリームシアター【Train Of Thought】レビューしてみた
どのアルバムも聴きごたえがあり好きですが、このTrain Of Thoughtは特に好きなアルバムです。
このアルバムはドリームシアターの中期に出されたアルバムで、ドリームシアターの全アルバムの中で一番重厚でダークなサウンドを醸すアルバムになってます。
ヘビーなサウンド、なのに胃もたれしない
全体的な曲調としてはドリームシアターの楽曲の中では特に重く歪んだサウンドが特徴で、でも荒々しさの中にドリームシアターらしい静けさと上品さを備えています。
そして、ドリームシアターらしいこだわりが楽曲のところどころに 散りばめられていて、聴き手を魅了します。
そのこだわりがドリームシアターの持ち味になっており、僕がこのバンドに魅了されている理由でもあります。
ギターのサウンドや全体的な各楽器の主張のバランスもよく、特にMike Portnoyがいた時代の、このアルバムを含む楽曲はリズム的な仕掛けが特に盛り込まれていて聴いているととても楽しいです。
人を惑わせること、それがドリームシアター的エンターテイメント
このTrain Of Thoughtにもたくさんの仕掛けが施されています。
ある時はギターのフレーズで聴き手を楽しませ、ある時は曲中のフレーズの輪郭をドラムが崩してきたり、バンド全体で一体となり、同じテンポなのに全く違うテンポに聴こえさせたりします。
同じフレーズを繰り返している時でさえ、ドラムのフレーズを絶妙に変化させ、その雰囲気を変えさえもします。
Mike Portnoy脱退後のアルバムではこのような仕掛けは減っているところを見ると、Mike Portnoyのリズムセンスが各楽曲に生かされていたのではないかと思われます。
Mike Portnoyが脱退したからドリームシアターが衰退した、と言いたいというわけではないですが、そういう仕掛けを最近の楽曲で味わえないのは少し寂しいとは思っています。
このTrain Of Thoughtは、そんなドリームシアターの仕掛けを存分に楽しめるアルバムになっています!
こだわり抜いているからこそ、ださくない楽曲
自分で曲を作ったことがある人ならわかると思いますが、色々とこだわ った曲ってかっこよくもかっこ悪くもなりうる紙一重な存在なんですよね。
変にこだわって曲を展開させちゃうと、その部分が目について同じ曲の中なのに水と油みたいに分離しちゃったりするんですよね。
でもドリームシアターの曲ってそういう目につく部分がないんです。
こだわり抜いているからこそ、僕たちはすんなり曲が体に浸透し、身を委ねることができるのです。
収録曲
ここからはこのアルバムの収録曲を紹介したいと思います。
As I Am
重々しいながらも程よい疾走感がある、そんな楽曲です。
ベースのナチュラルハーモニクスで始まる斬新な曲です。
ドリームシアターの曲としては曲の構成が複雑でなく、初めてドリームシアターを聴く方でも聴きやすい曲だと思います。
だけど! そんな構成の中にきらりと光るセンスがある!
まず、サビ前からサビ終わりにかけて本当にさりげなく、リズムの輪郭を崩す箇所がいくつかあり、何も考えずに聴いていると全く違和感がないのに、リズムにのって聴くと途端に自分の心の中のリズムが地に足がつかなくなってしまいます。
特にベースとドラムを中心に聴くと、その考え抜かれた規則的とも不規則的ともつかないリズムの泥沼にはまることができます。
聴いてもらうとこの気持ち分かっていただけると思います。
次に、この曲の2番目のAメロです。
この曲のAメロは一連のメロディを2回繰り返します。
2番に限り、メロディのお尻の部分でスリリングなことをしています。
ドラムがスリップビートをしているようにも聴こ えるし、バンド全体でシンコペーションして緊張感を出しているようにも聴こえるのですが、実は1小節だけ拍子を8分の7拍子にし、独特な緊張感を生み出しています。
なのに気持ち悪くないんですよ。
普通1小節だけ8分の7拍子に変えるなんてことしたら絶対ださいし目につくはずなんですよ。
それが全くださくない。
編曲のセンスやべーよ…っとなるのです。
他にもギターソロが単純にかっこよかったりと、聴きどころはたくさんあるのですが、複雑でない構成に光るそのセンスがとても印象に残る曲です。
話は変わりますが、先日ドリームシアターのライブに行ってきました!
その時の様子をライブレポとしてまとめています。
本当に最高でした。
もちろんこの曲もやりましたよ!
!!!!!!!! ドリームシアター来日!『IMAGES, WORDS & BEYOND』ライブレポ&セトリ 2017/09/11 ~リズムの大宇宙にいざなわれて~を張る !!!!!!!
This Dying Soul
この曲はアルコール組曲と呼ばれるアルコール依存症を題材にした組曲の一つです。
このアルバムの一つ前のアルバム『Six Degrees Of Inner Turbulence』のThe Glass Prisonと世界観が繋がっており、後のアルバム『Black Clouds & Silver Linings』までの各アルバムに1曲ずつこの組曲が収録されています。
とても激しく重く、そして力強いイントロから始まります。
そして少しずつ曲は展開し、重く重力感のあるテンポに落ち着いていきます。
そこから、ジメジメとした陰鬱な雰囲気を伴ったJohn PetrucciのギターでAメロが始まります。
陰鬱な雰囲気を伴いながら曲は展開していきます。
この曲を聴いていて楽しいところは、一つ前のアルバムに収録されていたThe Glass Prisonの特徴的なフレーズがちょこちょこ出てくるところです。
この2つの曲はアルコール組曲として世界観が繋がっているので、わざとそのようにされています。
ですが、単純にThe Glass Prisonの焼き回しをしているのではなく、The Glass Prisonとは全く違う曲調になっています。
The Glass Prisonで出てきたフレーズを何度か聴いていないと聴き逃しそうになるくらい、上手くこの曲に溶け込んでいます。
そういう遊び心もこの時期のドリームシアターのいいところだと思います。
The Glass PrisonのAメロを彷彿とさせるフレーズが、曲の中盤あたり(08:06秒あたり)で出てきます。
この部分なのですがよく聞くと2小節ずつに一度、拍の流れが乱されるような仕掛けが施されています。
これも面白い仕掛けで、バンド全体で8ビートを基にしたフレーズを普通に刻んでいるように聴こえるのですが、実は2小節の内の2小節目が8分の9拍子になっているのです。
4分の4拍子の流れで1小節だけ4分の4拍子+8分音符(8分の9拍子)になることで拍子の輪郭を崩しています。
普通に身を委ねて聴くとなんともないんですが、そこを意識して聴くとだんだんと彼らの生み出すリズムの底なし沼に引き込まれていってしまいます。
Endless Sacrifice
スローテンポでダークな曲です。
Jordan Rudessのキーボードが全体的にいい味を出しています。
重く引きづりこまれるようなダークなメロディ、曲が進むにつれてバンド全体を包み込むようなピア ノフレーズとストリングサウンド。
全てがかっこいい!
ドリームシアターの曲を聴いていていつも思うのですが、Jordan Rudessは超絶的な技巧の他に、曲の中の空間を操るのが上手いと思います。
そんなに難しいことはしてないのにそこに彼の存在感はあり、適切な表現をする力があるのもJordan Rudessのすごいところだと思います。
曲の途中から前半の静けさとは打って変わり、ギターとともに盛り上がりを見せます。
注目する点としては、ギターソロとキーボードソロ前のギターフレーズとキーボードフレーズ(04:54秒あたり)の絡みがとてもイカしているところです。
そのギターフレーズはとても特徴的なのですが、その特徴を上手に上手にキーボードのフレーズで上書きし、焦点をキーボードに持って行かせます。
その裏ではギターはずっと同じフレーズを繰り返し続けていて、その混沌としたやり取りが聴いていると癖になってきます。
ここから目まぐるしく展開していきますが、そこにわざとらしさはなく、むしろ聴いていて気持ちいいです。
ギターとキーボードソロの掛け合いも超絶的で、とにかく圧倒させられます。
Honor Thy Father
このアルバム最大のロジックを伴ったセンス抜群な楽曲です。
とにかく仕掛けがすごい!
この曲は8分音符の裏から始まるのですが、4分音符の表で 演奏しているかのように始まります。
そして僕みたいな純日本男児はどうあがいても8分の裏と認識できず、仕掛けが終わるまでずっと8分の裏を4分音符と勘違いして騙され続けてしまいます。
こういう8分の裏から始まる曲は比較的前半部分で、実はこんな風に演奏してたんだぜっと自慢するかのようにネタばらしするのがセオリーとなっています。
この曲も例に漏れずネタばらしをするのですが、そのネタばらしの仕方が秀逸です。
何が秀逸かというと、段階を踏んで少しずつ聴き手の違和感を取り除いていくところです。
その段階の踏み方がかっこいいんですよね。
以下にコメント付きの楽譜を書いてみました。
どのような展開になっているかの参考にしてください。
上記の楽譜の最後にイントロの最初にやっているドラムフレーズを記載しています。
最初こんな感じで演奏しているのでひっくり返って聴こえます。
数秒後にドラムがハーフビートの8ビートを叩き始めます。
この時はスリップビートのように聴こえてしまい、まだそのフレーズの全容は掴めません。
途中からドラムがテンポ通りの8ビートを叩き、ネタばらしをし始めます。
ここではまだ聴き手は多少の違和感が残っています。
そしてドラムがハーフビートで8ビートを叩き、そのフレーズの輪郭を浮き彫りにします。
ここでのミソは、最初にやったハーフビートより細かく叩いていないので、本来のリズムが掴みやすくなっています。
ギターのフレーズもよく聴くと若干変化していて、より拍の流れを理解しやすいように演奏しています。
ここでどのような演奏をしていたのかを聴き手は完全に理解します。
この計算された誘導は本当にすごいです。
めっちゃ考え抜かれています。
そんなすごい流れから重いギターの刻みが始まりイントロは展開していきます。
1番のAメロではJohn Myungのベースが曲の基盤を重々しく支えます。
曲中にはちょこちょこギターのピッキングハーモニクスが散りばめられているのですが、それがまたかっこいいんです。
しかもくどく聴こえないのがすごい。
そして曲の後半で、この曲最大の聴きどころとも言える、まじですごい仕掛けが登場します。
どのような仕掛けかというと曲の冒頭でやった仕掛けを再びやつらはやってきます。
しかも何の違和感もなく再び騙されてしまいます。
どこで表と裏がひっくり返ったのかわからないまま、いつの間にか、8分の裏を4分音符の表として認識させられてしまうのです。
その仕掛けに抗おうとリズムをちゃんと取ろうとしても無理矢理そうさせられてしまうのです。
この仕掛けも緻密に計算されています。
表と裏をひっくり返す過程(05:03秒あたり)で、まず拍子が8分の6拍子になります。
そしてところどころのフレーズを8分の5拍子にし、表と裏が違和感なくひっくり返る下地を作っています。
この過程のすごいところは、8分の5拍子にしてリズムを崩しているのにも関わらず、普通に聞くと違和感なく聞けてしまうところなのです。
リズムにのって聴くとリズムがずっと8分の6拍子で進行しているのではなくところどころ変拍子が挟まれているということに気づくことができます。
本当にいやらしい。
普通この手法を使った曲は、一度曲の仕掛けがとけた後はもう一度同じことをしようとはしませんし、再び仕掛けようとしても聴き手は正しいフレーズを認識しているので、仕掛けるのは本当に至難の業です。
仮に仕掛けることができてもどこか違和感のあるものになるでしょうし、かっこ悪くなりそうです。
それなのにそれをかっこよく違和感なくやってのけるドリームシアターはまじですげー
Vacant
一言で言うとうら悲しい曲です。
ピアノとバイオリンによるハーモニーが最高です。
Stream Of Consciousness
インストゥルメンタルでキーボードが前面に出てメロディ部分を演奏することが多い曲です。
怪しく陰鬱な雰囲気の中にどことなくキラキラとしたイメージを漂わせています。
キーボードだけでなく、安定したギターのバッキングも聴きどころとなっています。
ところどころ、メロディを意識したドラムフレーズがあり、聴き手をきっとニヤッとさせてくれます。
それぞれの楽器が主張してるにも関わらず、互いに邪魔をし合っていないところもすごいと思います。
アンサンブルがよくできてるなー、さすが神様だわって感じてしまいますよ。
In The Name Of God
最後の曲です。
静かなギターのアルペジオから始まったと思いきや、強烈なギターバッキングが突如始まります。
この曲も重くてかっこいいです。
そして1回目のAメロ後のイントロでドラムがスリップビートを違和感なく入れてくるところがおしゃれでかっこいいです。
前半の荒々しさとは正反対にサビは壮大で幻想的でドラマチックなメロディをJames LaBrieが歌います。
心地よいメロディです。
ギターソロ前のフレーズで、ドラムが全体のフレーズに合わせるところ(07:35秒以降)なんかはドラム好きな人は気持ちよく聴けると思います。
ギターソロは人間にはできないでしょってくらい難しそうなフレーズを軽々とやってのけちゃってますね。
その後のギターとキーボードのハモリもやばい。
息合いすぎでしょ、愛し合ってるでしょ、ぴったしすぎでしょ。
まじでこの二人すごい!
そして大サビを繰り返し、不穏な音階で静かにピアノで締めくくられこの曲は終わります。
まとめ
以上がこのアルバムのレビューになります。
上手く伝え切れたかどうかはわかりませんが、これをきっかけにドリームシアターやこのアルバムに興味を持っていただけたり、好きになっていただけたら幸いです。
ちなみにこのアルバムはEPを除いて7枚目のアルバムになります。
わざとなのかたまたまなのかはわかりませんが、このアルバムの曲の数も7曲なんですよね。
気になります。